

ういろうの小説
『さくら』2
さやは、桜の話を聞きながら、スマホで検索をしていた。驚いた表情になり、桜の顔を見て話し出した。
「桜!クマリンの香水がある。」
「えっ?今頃???あちこち桜の香りの香水が売られているけれど?」
「Houbigant社が人工合成クマリンを元に1882年に香水の調合に成功したんだって!」
「1882年?日本で?桜の御香って事?」
「それがね、フランスなの!!」
「ん?フランス???」
「どれどれ〜スマホ見せて!」二人で小さなスマホ画面に釘付けである。
「Fougere Royale」
「へぇ〜!!」1882年既に香水になっており、更に日本初ではなく、フランスと知り、二重の驚きであったようだ。
「桜がフランスにもあるってこと?」
「えっ?」
さやのスマホへの打ち込みの速さと検索術は、ちょっとしたプロ級であり、その検索結果も辞書並みである。
「フランスの国花は、fleur-de-lis って、出て来た!国の木は、マロニエ。ん?王家の紋章は、ユリの紋章に見えるけど、あれ何???」
(fleur-de-lisは、フランス語であり、直訳するとユリの花となる。)
「さや〜もうちょっと調べてみましょうよ。」
「ユリではなく、アイリス・・・。アイリスなんだって!」
「ふ〜む。」二人で考え込んでも、フランスは行った事がなければ、地理や世界史、経済やミニ知識を合わせても、よく分からないのは致し方ないのだ。
「あれ?ユリもアイリスもフランスの国花って出て来たわよ!」
「へぇ〜!さや、日本も国花が、天皇家が使う菊のイメージが強いけれど、実は桜も充分国花だって、ついこないだ父さんが教えてくれたの!法定国花はなく、習慣上でのことなんだって。国花は1つだけじゃない所も沢山あるって、知ったわ。フランスも2つあるんじゃないかしら?逆に国花のない所もあったの。」
「正解!!検索結果に出て来た!ところで桜〜アイリスって、どんな花なの?」
「えっ?知らない・・・。」
桜にはトンでもなく夢中な二人は、アイリスのイメージがいまひとつ浮かばなかったようだ。
「分からない・・・。」
「アイリス?」
こうやって、女の子達は少しずつお花を覚えていくのであった。
「見て!アイリス!」
桜は、お花図鑑を引っ張り出し、アイリスを調べてみると、菖蒲である。
「これ、菖蒲!」
辞典を読み出した。
菖蒲、杜若、花菖蒲、アイリスは、全て菖蒲科。菖蒲は、サトイモ科の別物。花菖蒲と混同しやすい。菖蒲は、杜若、花菖蒲、アイリスと同じ菖蒲科の一つ。
「読んで分かる?」
「この『菖蒲』という漢字は、アヤメと読むのかショウブと読むのかイマイチ分からない。漢字で書かれあるから、ごしゃごしゃだわ。」
アヤメ科を謎にしているのは、漢字のせいだ。
因みに、カタカナ表記で書き直してみますと、このようになります。
「アヤメ、杜若、ハナショウブ、アイリスは、全てアヤメ科。ショウブは、サトイモ科の別物。花ショウブと混同しやすい。アヤメは、杜若、花ショウブ、アイリスと同じアヤメ科の一つ。」
桜とさやは、これらを解読しているのである。パズルを解くように、導き出す柔軟な脳と好奇心や探求心は、答えに向かっていくものだ。
幾つになってもそうでありたいものである。
花菖蒲とは、江戸時代に改良して生み出された品種な為、日本にしかない。アイリスは、地中海沿岸を原産とする西洋種である。
fleur-de-lisは、アヤメ(アイリス)を図案化したものであり、フランスの古くは、メロヴィング朝クロヴィス1世が、王家の紋章とした起源がある。
アイリスやユリがフランスの国花になっている背景には、神話、時代、宗教的な関連性が見出だせる。しばしばアイリスなのかユリなのか混乱する事がある為、気を付けたいものである。
先にも述べた日本語の「菖蒲」のように、フランスの「アイリスとユリ」の存在である。
古代エジプトや古代ギリシャから虹を意味するアイリスは、愛されて来た花の一つ。
ユリと言えば、キリスト教においては三位一体を意味したり、受胎告知のシーンでは、西洋絵画に描かれているのは、白いユリ。
フランス語では、アイリスは『iris』
『fleur-de-lis』はユリだが、王家の紋章は『iris』二人が辿り着いた一つの答えでもあった。
国花を混乱させているのは、これだ!
どれだけ時間が経過したのであろうか。
夢中になって調べ続けた桜とさやは、アイリスが何となく分かったような気がしたようだ。
そしてアヤメ科を調べ進めた結果!
「アイリスも花菖蒲も杜若も〜っ、アヤメの内!」
さやのその一言で、久し振りに二人の笑い声が響き渡り、室内の空気も和らいだ。
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